中村行宏 様 (京都大学名誉教授)

長尾真先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

IEEE関西支部第100回技術講演会に際し、長尾先生は「人工知能のたどってきた道と私」と題して記念講演して下さいました(2017年12月16日)。

ご講演に先立ち、長尾先生ご紹介のお役目を私に頂きました。そのご紹介の内容を以下に述べさせて頂き、長尾先生への感謝の言葉とさせて頂きます。


この第100回記念に、日本の人工知能研究の草分けの長尾先生にご講演頂くことを大変嬉しく光栄に思います。IEEEからの案内にも参考資料として挙げている長尾先生の「人工知能と人間」(岩波新書)は、1992年に出版されていますが、洞察に満ちた内容で、多くの皆様がお読みになったことと思います。

そして長尾先生については皆様、よくご存じなので、長尾先生から頂いたご支援など私的なエピソードをご紹介させて頂き、この役目を果たしたいと思います。

1996年に私がNTTの研究所から京都大学の電気系教室にお招き頂いて着任したときには、長尾先生は一教授でおられましたが、間もなく図書館長、総長とより高い立場の役目を担われるようになりました。

NTT情報通信研究所の知識処理研究部に、私と同期入社で阪大卒の池原悟君がおり、彼がリーダーとなって機械翻訳、特に日英翻訳システムの研究開発に取組んでいました。この研究を長尾先生はご支援下さり、特に彼らが構築した「翻訳辞書」を高く評価して下さいました。「NTT内に留めておくのではなく、世に出して広く貢献し、その役割を高めて下さい」と当時の戸田巌所長を説得下さったことが強く印象に残っています。長尾先生の激励もあり、池原君は、人工透析をしながら、NTTから鳥取大学へ異動後も一貫してこの研究に取り組み立派な成果を上げられました。

2007年、長尾先生は、国立国会図書館の館長に就任されました。民間から初めて就任された館長でした。折しも、NTT研究所において、超高精細画像処理システムの研究開発に取組み、4Kデジタルシネマ実現の技術基盤を担いましたが、この次には、コンテンツの恒久保存、すなわち、100年メモリ、1000年メモリが必須であると考え、その実現に向かって取組みました。これを産学連携に展開したときにも、国立国会図書館長としてご多忙の中、長尾先生が時間を割いて我々の議論に加わり、指導下さいました。大変楽しい思い出です。

この他にも重要な場面で長尾先生にご指導、ご支援を頂いた事項はいくつもありますが、少し視点を変えたご紹介を致します。

長尾先生は、音楽へのご造詣も深く、京大オーケストラ、京都市交響楽団などのコンサートに奥様とよくお出かけになっており、私なんぞは最近、コンサートホールで長尾先生にお目にかかる方が多いです。ここに目を付けた京都市が、長尾先生に京都市音楽芸術文化振興財団の理事長をお願いしています。このお立場で、長尾先生は、京都が文化創造、文化交流の中心であり続けるよう指導されており、文化庁が移転してくる京都にとっても大きな貢献をされています。

この音楽に関連してひとつ記憶に残っていることを申し上げます。

2005年、「自然言語処理及び画像の知的処理に対する先駆的貢献」により、長尾先生は、日本国際賞(Japan Prize)を受賞されました。国立劇場において、天皇・皇后両陛下ご臨席のもと、授賞式が行われましたが、その折、長尾先生が希望されたモーツアルトの「ディベルティメント」が新日本フィルハーモニー交響楽団により記念演奏されました。特別な場面での印象深い演奏でした。

「長尾博士は,コンピューターによる機械翻訳の研究を進め,その技術の基礎を作られました。この技術は,科学技術論文の抄録の翻訳について既に実用化され,また,博士の提唱された用例翻訳の手法は,様々な言語相互間の機械翻訳をも可能にしつつあります。さらに,博士は,画像処理の分野で,人の顔写真の解析や認識を可能にする技術などを開発され,これまでに研究された技術を総合して,電子図書館の理想の姿を提案されました。」

これが、日本国際賞授賞式における天皇陛下のお祝いのことばです。

では、ご紹介はこれぐらいに致しまして、長尾先生のご講演を拝聴したいと思います。

長尾先生、よろしくお願い致します。

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